【メンタルスキル】心のしなやかさ「レジリエンス」の定義と高い人の特徴
今回は「レジリエンス」について、その定義と高い人の特徴を解説していきます。
《この記事でわかること》
- レジリエンスの定義
- レジリエンスの高まる仕組み
- レジリエンスが高い人の特徴
《この記事に向いている人》
- 立ち直りが早くなりたい人
- メンタルコントロールがうまくなりたい人
- 精神的強さを手に入れたい人
- 傷つきやすく落ち込みやすい人
レジリエンスの定義
「困難への適応能力」と表現されることもある。
レジリエンス研究は1970年代に始まり、当初は子どもが困難な状況(貧困、虐待、戦争など)にさらされても、なぜ健康に適応できるのかという疑問から発展しました。
初期の研究では、レジリエンスは個人の「強さ」や「資質」と捉えられていましたが、現在では「逆境にもかかわらず、良好に適応するプロセス、能力、あるいは結果のこと」とより包括的に定義されています(Masten et al., 1990)。
レジリエンスの必要性
- 仕事のプレッシャーによるストレス
- 人間関係のストレス
- 環境の変化によるストレス
レジリエンスにおける重要なポイント
- レジリエンスを鍛えることで落ち込みづらくなるわけではなく「立ち直りやすくなる」方が正確。
→「精神的回復力」=「レジリエンス」 - レジリエンスは生まれつきの能力ではなく、習慣やトレーニングによって誰でも鍛えることができる。
→「物事や出来事に対する考え方やとらえ方を変えることで、困難に適応していく技術」とも言える - レジリエンスは見方を変えれば、「困難を糧にして成長できる能力」とも言える。
→逆境を乗り越える力が見につくことで「レジリエンス・グロース」を起こしやすくなる。
※レジリエンス・グロースとは?
レジリエンス・グロースとはつまり、つらい経験を通して、忍耐力がついたり、人間関係が深まったり、人生そのものへの感謝の気持ちが強くなったりなどの、ポジティブな精神変化を経験することを言います。
※ストレス耐性値との違い
ストレス耐久値とは、そのまま「ストレスに耐えうる力」のことを指します。
つまりは「防御力」であり、ストレス耐久値が高い人ほどストレスを感じにくく、落ち込みにくくなるというわけです。
よく「レジリエンスを鍛えることで落ち込みにくくなる」と勘違いされがちですが、それはレジリエンスではなく「ストレス耐久値」に該当します。
- 精神的「防御力」「落ち込みにくさ」→ストレス耐久値
- 精神的「回復力」「立ち直りの速さ」→レジリエンス
レジリエンスが高まる仕組み
脳の仕組み
レジリエンスを高めるカギは「理性をつかさどる領域」と「感情をつかさどる領域」との連携の強化にあります。
理性をつかさどる領域「前頭前野」
感情をつかさどる領域「偏桃体」
偏桃体は、命を脅かす危険が迫ったときに「恐怖」や「不安」といったネガティブな感情を出すことで警告を出す重要な役割があります。
偏桃体が過剰反応することでパニック状態に陥ったり、不安の増大に苦しんだりする根本的な原因になるわけです。
経験を学習する領域「海馬」
心の仕組み
レジリエンスを高めるためには、重要な3つの心理的要素があります。
- 自己効力感
- 認知の柔軟性
- 社会的支援
①自己効力感
自己効力感の感覚があることで、困難に直面してもくじけず、果敢に自分のできることに集中することができます。
ちなみに、自己効力感を高める重要なポイントは以下の2点です。
- 簡単にクリアできる課題を日常的に大量にこなす
- 人の役に立つ&人の負担を減らす作業を積極的に行うことで、人から感謝される
この2つを常に積極的に行うことで、自分への信頼感「自己効力感」も高まりやすくなっていきます。
②認知の柔軟性
例えば、「失敗を失敗だと思わなければ失敗ではない」という、とんちのような明言はレジリエンスを高めるために大切な要素と言えます。
失敗を「終わり」ととらえるのではなく、「必要な試練だった」「貴重なデータが取れた」「おかげで次からの対策法がわかった」ととらえ直すことでネガティブ感情に支配されないようにしていきます。
③社会的支援
困ったときに相談に乗れる、話を聞いてもらえる相手が一人でもいるという安心感が、ストレスを緩和する緩衝材のような役割を果たします。
また、「信頼感」を感じているときに脳内では「オキシトシン」と呼ばれる脳内物質が分泌されており、これが精神疲労の回復やストレスの緩和に役立ちます。
レジリエンスが高い人の特徴
- 自己肯定感が高い
- 楽観的
- 感情コントロールがうまい
- 出来事に意味を見出せる
- 良好な人間関係を築きやすい
①自己肯定感が下がりにくい
レジリエンスが高い人は、「ネガティブな状況からポジティブな状態への視点変換」がうまいので、失敗を許容する能力も総じて高くなりやすいです。
「失敗しても大丈夫、私なら乗り越えられる」と考えることができるので、自己肯定感も下がりにくく、自分への評価も下がりにくい傾向にあります。
②楽観的
レジリエンスが高い人は、どんな困難に直面しても「私ならきっと乗り越えられる」と楽観的に考えることが得意です。
どんな状況でも「必ず最後はうまくいく」と自分を信じ、状況に合わせてうまく自分を柔軟に適応させることで、困難を乗り越えることをあきらめません。
また、困難に直面した時に「今の私にできること」に意識を集中させ、問題をより多角的な視点でとらえることができるのも特徴の一つと言えます。
③感情コントロールがうまい
レジリエンスの高い人は、ネガティブ感情を減らしたうえで、自分の頭の中からポジティブな感情を引き出すのがうまいです。
見方を変えると、レジリエンスは「ネガティブ感情からいち早く脱却する能力」と表現することができます。
よって、プレッシャーにも強く、ストレスをうまく処理する能力が高いのもレジリエンスの高い人の特徴と言えます。
④出来事に意味を見出せる
レジリエンスの高い人は、困難を「単なる不幸な出来事」と言って片付けるのではなく、「乗り越えるべき試練」と認識しています。
「試練」ととらえることで、課題解決への意欲を底上げしながら、困難を乗り越えようとする精神的エネルギーを高めていけます。
⑤良好な人間関係を築きやすい
レジリエンスが高い人は「ネガティブ感情のコントロール」もうまいため、心理的な余裕が生まれやすく、人との衝突を避けるのもうまくなります。
また、自分の弱さをポジティブに解釈するのが得意なため、他者の欠点も同様に受け入れられる度量が大きいです。
そのため信頼関係も生まれやすくなり、より良質な人間関係を築いていくことができます。
レジリエンスに関するエビデンス・実験
最後に、レジリエンスに関する実験データをいくつか紹介していきます。
エビデンスを知ることで、より「レジリエンスに対する認識」も深まっていくはずです。
①「カウアイ島の縦断実験」
これは、レジリエンスという概念を世界に広めるきっかけとなった、最も有名で重要な研究です。
※縦断実験とは?:同じ追跡対象を超長期間にわたって追跡調査する研究方法のこと。なかには40年50年以上にわたって追跡調査された研究も存在する。
実験の概要
提唱者は、発達心理学者である「エミー・ワーナー博士」
《研究内容》
- 1955年にハワイのカウアイ島で生まれた新生児全員(約700人)を対象に、彼らが40歳になるまでの人生を追跡調査する「縦断研究」(同じ対象を長期間にわたって追跡する研究手法)を行いました。
- 調査対象の中には、貧困、親の不和や精神疾患、周産期ストレスなど、多くの「リスク因子」を抱える子どもたちが約1/3含まれていました。
実験結果
- この研究の当初の予測では、1/3のリスク因子を抱える子供たちは、成人後に非行や心の問題などの深刻な問題を抱えるだろうと考えられていた。
- 実際には、この中の2/3は予測通り困難な人生を歩んだ。
- しかし、リスク因子を持つの1/3の子供たちは、逆境にも関わらず、環境に適応し、思いやりのある自信に満ちた大人へと成長していった。
※ワーナー博士は逆境の中でうまく適応していった子供たちを「レジリエントな子供たち」と名付けた。
結果の要因
この研究から、レジリエントな子供たちには2つの「保護因子」を共通して持っていたことがわかりました。
- 個人的な因子:比較的穏やかで、平均以上の知能指数があり、自律性(自分の価値観や判断に基づいて行動できること)が高いこと。
- 環境的因子:少なくとも一人の「無条件で愛情を注いでくれる大人」の存在があった。
他にも、環境的因子では、「学校生活が楽しい」「心のよりどころになる環境に属していた」「クラブ活動などで、頼りにされる経験があった」など、「人との暖かな交流」があることが共通して見られた。
この研究の意義
この研究で、レジリエンスは一部の特別な人間の才能などではなく、後天的に育まれていくことが初めて科学的に実証されました。
つまりこの研究で、「生まれた環境や逆境そのものが問題なのではなく、それを乗り越えるための人や環境が周囲にあったかどうかが重要である」という、現代のレジリエンス研究の礎を築くことができたわけでもあります。
②「マインドフルネスと脳の構造変化」
近年の脳科学は、レジリエンスを高めるトレーニングが、実際に脳を物理的に変化させることを明らかにしています。
実験の概要
- マサチューセッツ大学のジョン・カバット・ジン博士らが開発した「マインドフルネスストレス低減法(MBSR)」という8週間のプログラムの効果を検証した研究が数多く行われています。
- 参加者はプログラムの前後で、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)という装置を使い、脳の活動や構造の変化を測定されます。
実験結果
この実験によりわかった脳の変化は以下の3つです。
- 偏桃体の縮小:偏桃体の灰白質密度が減少したことで、ストレスに反応する脳の警報装置が過剰に反応しなくなった。
- 前頭前野の活性&肥大化:理性や判断、感情のコントロールをつかさどる前頭前野の活動が活発になり、さらに厚みが増したことで、感情のブレーキが利きやすくなり、冷静な判断ができるようになった。
- 海馬の密度増加:記憶や学習、感情の文脈判断に関わる海馬が強化されることで、感情的な記憶に振り回されにくくなった。
この研究の意義
この実験によってマインドフルネスが、レジリエンスに関わる脳の領域を物理的に変化させるという客観的事実を示すことができました。
この実験から「偏桃体の抑制」「前頭前野の強化」「海馬の密度増加」は、レジリエンスを鍛える上でも欠かせない要素であるということがわかります。
③「学力性無力感の実験」
レジリエンスにおける「物事の捉え方(認知)」の重要性を示した、心理学における非常に有名な古典的実験です。
実験の概要
提唱者は、ポジティブ心理学者の「マーティン・セリグマン博士」
《実験内容》
- 犬を2つのグループに分け、一方のグループには「ボタンを押せば止まる電気ショック」を、もう一方には「何をしても止められない(回避不能な)電気ショック」を与えました。
- その後、両方のグループの犬を「低い壁を飛び越えれば電気ショックから逃げられる」新しい箱に入れました。
実験結果
- ボタンでショックを止められた犬は、すぐに壁を乗り越えて逃げていった。
- 回避不能な電気ショックを経験した犬は、すぐに逃げ出せる状況にもかかわらず、逃げる努力を一切せず、その場でうずくまってショックを受け続けた。
- この現象を「学習性無力感」と名付けた。
結果の応用
この実験結果から、失敗や困難な出来事が問題なのではなく、それに対して「どうせ何をやっても無駄だ」という無力感を学習してしまったことで、鬱や無気力につながることが明らかになった。
この実験の意義
この実験から、逆境に対する「コントロール感」や「物事の解釈」がいかに重要かが判明されました。
レジリエンスの高い人は失敗を「永続的なもの」ととらえず、「一時的で限定的なもの」ととらえられることができる人と言えます。
これらの有名なエビデンスが示すように、レジリエンスは、
といった、具体的で科学的な根拠に基づいた要素によって高められるスキルです。
決して根性論ではなく、誰でも学び、実践できる科学的な知恵といえますね。
レジリエンスが高い人の特徴 まとめ
《今回のテーマからの気づき》
- 「ネガティブな感情をいかにポジティブ感情に変換できるか?」がやはり立ち直りを速くするうえでも重要だということがよく理解した。
そのためにも、物事を建設的に、前向きに考える思考のクセを身に付ける必要があるなと感じた。
《新たに理解を深めた知識、センテンス》
- 「レジリエンス・グロース」:つらい経験を乗り越えることで、精神的な成長を遂げること。→ストレスへの対処法の学習や人間関係の強化、感謝の感情の増幅など。
- 海馬は本来「生存確率の高くなる状況判断や情報」を覚えるために備わっていること。「逆境を乗り越えてきた経験」を記憶することで、心のしなやかさ、つまりレジリエンスも高まりやすくなることが分かった。
- 前頭前野を鍛えることが、ネガティブ感情からの脱却につながりやすくなるので、レジリエンスを鍛えるうえでも前頭前野は重要であること。
- 結局のところ、「前頭葉」「偏桃体」「海馬」の3つの脳の器官を鍛える、もしくはうまくコントロールできるようになることが、あらゆるメンタルスキルを高める上で何にでも当てはまる重要な要素であると感じた。
日頃から小さな課題を数多くこなすことで「自分ならどんな状況でも乗り越えられる」という感覚の元である「自己効力感」を育てていくこと。
人の役に立つことを日常的にすることで、自分への信頼感を下げないことがレジリエンスを高める上でも個人的に重要だと感じた。
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